『天皇制の隠語』 (航思社) 絓 秀実 著

  • 2014.08.30 Saturday
  • 08:48

『天皇制の隠語』 (航思社)

  絓 秀実 著

 

   ⭐⭐⭐⭐⭐

   歴史の断絶を避けるために

 

 

左翼思想が形骸化した現在、
「68年」の思想とも言うべき本書は、
1968年にまだ生まれていない僕にとって読んでおきたい本の一つでした。

書き下ろしを含めた表題作は、
1920〜30年代の「日本資本主義論争」における講座派と労農派の対立が、
いかに現代にまで波及しているか、
そして天皇制という問題が回避されていったかを、
文学史をふまえつつ追っています。

60年安保を契機とした講座派から労農派へのヘゲモニー転換や
小林秀雄のマルクス理解や中村光夫の講座派的文学観、
ハート/ネグリの「コモンウェルス」と講座派的な労働価値説の関係まで、
その射程は広く、難解ではありますが、非常に勉強になります。  

著者は岡本太郎論の中で、
資本主義を「脱構築的なシステム」だと言い切っています。
その認識に達していれば、
脱構築が資本主義を脱臼させるわけがないことがわかるはずなのですが、
いまだポストモダンが有効な思想だと考える権威主義者が多いだけに、
この指摘には著者の真に左翼的な「知性」を感じました。

 

 

 

評価:
スガ 秀実
航思社
¥ 3,780
(2014-04-21)

『かつては岸』 (白水社) ポール・ユーン 著

  • 2014.08.10 Sunday
  • 08:35

『かつては岸』 (白水社)

  ポール・ユーン 著/藤井 光 訳

 

   ⭐⭐⭐⭐⭐

   人生のある小説

 

 

久々に「いい小説」を読んだ気がしました。

1980年生まれの韓国系アメリカ人のユーンの手による、
日米韓の歴史を背景にしたソラ島を舞台とした、
家族の物語を集めた連作短編集です。

喪失感を抱えた人々のささやかな交流を描く、
気負いの少ない静かな筆致にも感心しますが、
人生の重みを損なわない時間や記憶の描写に、
ユーンの確かな力量を感じます。

泣けるストーリーというわけではないのですが、
人生の哀しさと人の思いの報われなさが迫ってきて、
通勤途中に読んでいたらどうにも涙が止まらず、
本当に困りました。

冒頭の作品「かつては岸」は、
2001年にハワイ沖で起こったアメリカの原子力潜水艦と「えひめ丸」の事故を題材にしています。
自意識をめぐる内向的な物語ばかりではなく、
戦争の歴史や米軍依存と向き合う作品を、
日本の若い作家にも書いてほしいものです。

 

 

 

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