『放射能問題に立ち向かう哲学』 (筑摩選書) 一ノ瀬 正樹著
- 2013.05.05 Sunday
- 10:32
『放射能問題に立ち向かう哲学』 (筑摩選書)
一ノ瀬 正樹著
⭐⭐
立ち向かってますかね?
「放射能問題に立ち向かう」というよりは、「低線量被曝による発癌リスクを因果論から考える」本ですね。
哲学は現実問題に挑むべきだという一ノ瀬の態度は評価できますが、
放射能問題と銘打ちながら、低線量被曝による健康被害だけを扱っている点や、
最初に「不の感覚」「道徳のディレンマ」などの哲学的視点を提出しながら、
続く内容のほとんどが、「言うほど被曝のリスクは高くない(決定できない)」でしかなかったのは、
退屈と言うしかありませんでした。
また、被曝や癌死のリスクは日常にいくらでもあるから、
原発事故によるものだけを特別視できないという相対的認識も提出されますが、
それが論理的に正しいのは、癌死のリスクだけを扱っているからです。
自分に都合のいい範囲に議論を狭めて、
その中でしか通用しない理論を持ち出すのは、到底フェアと言えるやり方ではないでしょう。
私見ですが、放射線物質の問題は経験論だけで考えられる問題とは思えません。
遺伝子操作と同じく、未来における事態の深刻さが予期しにくいため、形而上学的な視点も求められる気がします。
(その意味でハイデガーの技術論などが見直されつつあるかもしれません)
経験論ベースのリスク論には基準となる数値や指針が必須ですが、
そもそも人々は原発安全という規範が嘘だったために、政府や学者の規範に不信感を抱いているわけで、
そのような実感を非論理的なものとスルーして、
低線量ならリスクは低いということの因果論的妥当性を追求しても、
多くの人を説得する力があるとは思えません。
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