『1Q84 BOOK1〈4月‐6月〉前編』 (新潮文庫) 村上 春樹 著

  • 2012.04.01 Sunday
  • 23:00

『1Q84 BOOK1〈4月‐6月〉前編』 (新潮文庫)

  村上 春樹 著

 

   ⭐

  裸の王様

 

 

エンタメとして楽しむ人はそれでいいと思いますが、文学としては評価できません。
ノンポリの村上が宗教とテロの問題を扱おうとしたところに、ノーベル賞への野心が感じられますが、十分にテーマを深められず、進路変更して投げ出した印象です。

『ノルウェイの森』以降の村上は、母性との一体化(による幼児的全能感)を通して精神外傷を克服するファンタジーを描き続けています。
つまるところ村上ワールドとは、アメリカ依存の経済成長で「ジャパンアズナンバーワン」の全能感に浸り、敗戦というトラウマを克服した気になった80年代バブルの産物に思えます。

母性との一体化については、村上作品の主人公に父や男兄弟がいないという点が象徴的です。主人公は母性を独占できるようになっています。『1Q84』では珍しく主人公の父が登場しますが、すでに臨終直前で、母を奪い合う位置にはありません。『ねじまき鳥クロニクル』で義理の兄(綿谷ノボル)が登場しますが、宿敵として描かれるのも当然かもしれません。
僕は村上自身がひとりっ子ではないかと推測しますが、中国で村上作品がウケているのは、ひとりっ子政策による「小皇帝」だらけだからだ、と分析した研究者はいいところをついています。

敗戦というトラウマの克服について象徴的なのは、村上作品には日米戦争が存在していないということでしょう。『ねじまき鳥』でノモンハン事件が扱われていますが、相手がソ連だということを忘れてはいけません。母なるアメリカが敵だったという事実は、村上作品からきれいに抹消されています。

こんな貧弱な精神に賞を与えるほどスウェーデン・アカデミーも無分別ではないと思いますが、近年のノーベル文学賞をどんな人が受賞しているかも知らずに騒ぐマスコミにはほとほと呆れます。
「王様は裸だ」と叫んで、「売れているものはすばらしい」というマインドコントロールから脱しましょう。

 

 

 

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